〔1-7〕 出会い 〜ガウディ著〜
そもそも当初は、そこは行きたくて行った場所でなく、たまたま砂漠地帯の海沿いのビーチに、質素でも最高のロケーションの宿があるはずだと勝手に想像して決めて、ウロウロと海際を88年製のイギリス製のランドローバーを、さらにボアアップして軍事仕様に高めた愛車で走り回っていた。
ただし、その勘と思惑は外れて、海沿いを何時間も走り捲っても見渡す限り、砂の丘が海の青さによりさらに強調された白さが際立つ、連山となってそこにあり続けるだけだった。
ちっ!歳をとるとこんなことまで外すようになるんだ。と舌打ちをしながら、お気に入りのハバナ産の葉巻きに火を点ける。
乾燥しきった砂漠の空気のせいか、しっとりと熟成に手間ひまかけて進ませた葉巻の表面が乾いて、ひび割れていることに気づいた。
ちっ!こんなとこやはり大嫌いだ!と 悪態をつきどんどんスピードをあげて、元来た方面に怒りを吹き飛ばすように車を走らせた。
暫く怒りがおさまって鼻歌が出る頃に、ふっと前を見て気づいたら、こんな砂漠のど真ん中で、手を振っている4-5人のグループを目視することが出来た。
職業柄、安易には近づくことは避け、少しずつその幅を、その人物たちを確認分析しながら縮めていった。
10メートルくらいに近づき、一旦車を停めて、外に出てドアを閉めた。
再度、手を振る集団を冷静に分析した。
車は、ドイツ製ダイムラーベンツ社のウニモグと、ゲレンデバーゲン4駆。
どうやら、お金持ち投資家を案内する不動産ビジネスマン一行ってとこかな?と、プロファイルした俺は、そのまま車をさらに近づけ、5メートル手前で来た方向に停め直し、いざというときに砂にとられてエマージェンシーアクション(緊急対応)時に、車が動かないということにならないよう、念のためにトランクに入れてあった麻袋を数枚、タイヤと砂の間の前方に取り急ぎ敷き、スリップ防止に努めた。
そのままゆっくりと歩を進めた。
近づくにつれて、はっきりとメンバー構成が確認出来た。
男性3人、女性2人。
うち1人の男性は、真っ黒に日焼けして笑顔が魅力的な男性が、特に重要人物であると感じた。
さきほど不動産屋だと思ってたやつはどうやら、この人たちの警備担当らしい。
タクティカルサングラスをそれっぽく意識して着けている感じがする。
ずいぶんアホそうだな。安っぽい吊るしのスーツ来て、おまけに自信があるのか、救いようの無い馬鹿なのか不明だが、俺のような彼らにとって知らない人物が警護対象人物に近づく際は、必ず、武器のドロー準備をして、自分と対象の間に入るポジションをとることなど、一年生でも出来る動作だ。
それどころかこのアホは、アホそうな顔をさらにアホっぽく崩して、温そうになった缶のコーラを飲んでニヤニヤ見ているだけ。
っと、笑顔の印象的な日焼け男の足下に、何かの陰を見た。
蛇だ。それも猛毒性の。
ガラガラ蛇のように音を出すが、その音は人により聞こえ方が違うが、大体は「モヨ~ン モヨ~ン」と聞こえ、少しユニークすぎて笑ってしまうが、そこの油断につけ込み攻撃してくるモーヨスネークが、彼の足下に近づきまさに「モヨ~ン」としようと鎌をもたげた。
俺はすかさず警備担当のアホに
「ウオッチアウト!蛇だ!」と叫んだ。
アホは、ある程度予想出来たが、モヨ~ン攻撃で笑いすぎて使いものにならなくなっていた。
アホは、涙を豪快に流しながら鼻水まで垂らし大笑いし、
「ほらぁーこれがこれがモヨ~ンって言ったよ!wwww」と狂ったように両手で蛇を指差しながら、大声で叫ぶしか無いようだ。
もう、時間がないと感じた俺は、すかさずその日焼け男を突き飛ばし、先ずはごついブーツを履いた足で、モーヨスネークを蹴り離し、アホの腰から、派手にアタッチメント類を付けすぎて使いにくく重くなり、バランスの悪いグロックC20をぶんどり、モーヨスネークに向けて発砲した。
モーヨスネークは頭の部分でなく、シッポのほうに「モヨ~ン」とユニークな音を出す器官(笛のような構造と言われる)があり、ここが急所である。
最後は 「モヨ~~~~~二イィン」 という奇音を出して動かなくなった。
日焼け男は勉強熱心なのか、命を助けたお礼もそこそこに矢継ぎ早に、
なぜに頭でなくシッポを撃つのか?
なぜに俺はモヨ~~ン攻撃されても効かずに笑わないのか?
なぜに車を進行方向に向けて停め直したのか?
なぜに麻袋をタイヤの前に置いたのか?等々 質問を投げかけてきた。
視点の広さと興味深さの多種さと理解度、かなり頭が良い男だと直感した。
同時に、お礼も言わずに自分の興味にひた走るところがガキのようだな。と思った。
俺に似ていると思った。
終いには、聞いてもないのに、笑顔で目を輝かし、何か自分の夢まで語りだした。
猛暑の乾燥砂漠の中だからか、頭がぼーっとしてきて、音が聞こえなくなる中で、ただその男の顔を見ながら、何か今後急速に発展していく縁をこの時点で予見していた。